Hale-Bopp
思い出すのは 戸惑い寄り添う指の先
ただそれだけが 全てのような気がしていた
よすがに飢えて 震え出す影はひとりぶん
餌にするなら 睦み合う夢をひと夜ぶん
いつでも、
語り尽くせぬ幸いに振り向けば
もう届かない距離
ひととき、捉えたような気がしたのは
眩しさにくらむ残像
君が示した 不確かな明日、が、なくとも
思いもかけず 息をするだけなら容易い
あんなに、
語り明かした幸いはそれなのに
もういらなくなった
今でも、瞼を焦がす残像は
ことのほか、悪くもなくて
夢か 現か 人混みの中
離れた片手 そしてそれきり
止まぬ時計と 溜息だけが
ひとりは寒い、と、饒舌
あの頃、
語り尽くした幸いに手を振れば
もう見えなくなった
これから肩に留まる幸いがあるとしても
君じゃないだろう
ただ、今も哀しいのは
手離せる大人になったこと
独りじゃ眠れない夜も
きっと鮮やかに
燃ゆる残像。