Oct21
ショウ・ビズ
2006年10月21日 ロックノイケニエ奮闘記
10月18日ブランニューライブ前夜。
今回のライブは前日「前夜祭」と称してメンバー全員俺の家に集まって、
寝食を共にし、
絆をガッチリ固めてライブに臨むのだ。
プロやツアーバンドと違い、地道にファンをつける活動しかできない今の俺達にとっては月数回のライブに対する思い入れが違う。
特に前回のライブはステージ上のモニターが崩壊し、
中音とは呼べないノイズの中プレイしなければならない状況で俺達は実力を出し切れなかった。
ライブ終了後なぜ誰一人としてライブ中にサウンドエンジニアにモニターの修正を求めず、最悪の状況で演奏を続けたのかと反省した。
この1ヶ月不安にかられ、自信を取り戻すべく申し込んだストリートライブも全て中止。
明日のライブはバンドの命運を分ける程大袈裟なものになってしまった。
本当に俺達って中途半端な存在理由の不明な者達だと思う。
別に俺達は世間に求められていないし、みんなが求める音楽をやるやつなんて腐るほどいる。
プロ級の実力だってない、あるのは音楽を愛する気持ちと音楽でしか自分を表現できないという理由だけ。
時には酷い演奏をぶちまけエゴイスティックなライブをしてしまう。
しかし多くはないが俺達を応援してくれる人もいる、黄昏少年はクールだと言ってくれる人もいる。
じゃあその期待に応えるため、頑張りたい。
一人でも聴きたいと言ってくれる人がいるなら、まだ音楽を続けてもいいんじゃないだろうか。
今回のライブからベーシストが野上智広に代わった。
キャリア不足だが音楽を愛する気持ちに溢れた純朴な男だ。
19時過ぎにその智広到着で、ポツポツ話しながらドラマーの到着を待つ。
吉村宗一郎、バンド一の努力家でバンド一熱い男だ。
最年長にも関わらず分け隔てなくみんなに接する広い心に敬意を表さずにはいられない。
しかしそんな評価も前夜祭遅刻という現実の前には脆くも崩れ去る(笑)
「おせーよ、アイツ!」
17時から飲みっ放しの俺はすでに酩酊状態であり、
酒を飲むと眠くなるタイプの智広はカクテルを一口啜っただけで吉村の到着を待ちわびている。
この二人の均衡の取れない温度差の中23時、
とうとう俺は前夜祭開始の祝杯を挙げる前に眠りに落ちた。

ケータイの呼び出し音が聴こえる、誰だ?
こんな夜中に。
目覚めると智広も寝てた(笑)
電話の主は二人が待ちわびた吉村その人であり、彼は到着の旨を告げた。
ちなみに俺の住んでる家は社宅のようなもので、倉庫のある会社の敷地内にある部屋を借りているので赤外線のセキュリティーがついている。何も知らない吉村はその網に引っかかるのでは!?
眠りについていた気だるい体に鞭打ち俺は立ち上がった。
「ダメだ吉村、セキュリティーに引っかかるとセキュリティー会社の人が見回りに来て出張費が会社にかかる!」
階段を一気に駆け下り会社の門へと走る、人影が見えた。
案の定吉村はセキュリティーの赤外線センサーの前を悠然と通り越え、何でもない顔をして俺を見ている。
会社の事務所に鳴り響く電話の呼び出し音、しかし事務所の鍵は渡されておらず応対できずに無人の事務所で電話は鳴り続ける。
しかし俺は罪のないこの無垢な青年を責めることができず、腹を括り彼を部屋へ招き入れた。
しかしセキュリティーに異常があったものの俺がすぐに解除をかけたためか、怠慢なセキュリティーなのかは知らないが誰も見回りに来ず、24時を過ぎた前夜祭ならぬ「当日祭?」は朝5時まで続いた。
家飲みで500mlのビール七本は最高記録だった(笑)

当日、リハーサル入りは14時30分なので各自準備して12時半に出発。
結局前夜祭で行ったバンド的なことといえばSEをみんなで決めた事だけ(笑)
まあいいんだよ、何でもない時間を一緒に過ごせる仲間っていうのが実は一番大事なんだ。
移動中の車内ではバンドのさらなる宣伝活動についての話など、少しはバンドらしいところも。
会場入りし、リハーサルまで順調にこなし、本番まで皆思い思いに過ごす。
吉村は調整のため一時間ほどスタジオに、智広は会場のある西九条散策。
俺はナーバスになる気持ちを沈めるため、愛車の中でライブのシミュレーション。
ライブ前だというのに体がひどくだるい、今日のショウが納得いかないものになればバンドの存続も危うい。
ライブにお手本などない、なぜならその名の通り生物である。
うまくいったライブと同じ手順で、もう一度ライブをやってもうまくいかない。
その日のメンバーの体調、モチベーション、コンセントレーション、会場の入り、雰囲気、全てを敏感に察知しその場その場で最善のパフォーマンスを繰り出す。
また、演奏が度を越える荒っぽさになるため熱くなり過ぎてもいけない。
銀杏ボーイズのように破天荒な狂いっぷりが売りのバンドも確かに魅力的だが、黄昏少年の演奏の理想は荒っぽさと繊細さ。
これは難しい、クールになりすぎてもいけない。
プレイヤー本人の満足感が不完全燃焼に陥ってしまうためだ。
時に熱く時にクールに、バンドの理想は高い。
シミュレーションを繰り返すうち不安になり、俺自身逃げ出したくなる時もある。
全て投げ出し家に逃げ帰れたらこの不安から解放される。
やはりそれほど人に感動、楽しみを与えることは困難なのだ、
実力もファンも少ないバンドなら尚更じゃないだろうか。
しかしそんな弱気な自分の心に喝を入れ、シミュレーションに集中する。
18時過ぎ、ようやく気持ちも整い考えうるだけの策を用意した俺は再び楽屋へ戻った。楽屋にはまだ吉村は戻っていなくて、智広が一人集中してベースを弾いている。
ヘタなりに一生懸命やってるじゃねえか、少し抱きしめたくなる(笑)
しばらくすると吉村も帰ってくるが表情がさえない。
調整で入ったスタジオで逆に自信を失ったらしい。
何とか気楽にプレイできるよう色々アドバイスしてみるが思うような効果は表れない

俺も顔だけは余裕かましてるけど気持ちは同じだよ、本番はできるだけメンバーと目を合わせ、励ましながらライブを進めることにした。
本番前、俺達の次に演奏するバンドのカメラマンの人が、俺には独特な雰囲気があると言って写真を数枚撮ってくれた。
彼曰わく、無口でいて雰囲気が全てを物語るらしい。
ライブ前に少々嬉しい出来事、吉村がステージ衣装についてアドバイスを求めてきたので上着を脱いでTシャツでの演奏を勧める、ドラマーはワイルドでなきゃね☆
いよいよ出番。
開演直前、幕の下りたステージで吉村がはしゃぐ。
俺も緊張を紛らわせるため一緒にはしゃぐ、かなり狂気じみた空気を生み出す年上二人を横目に智広は落ち着いているように見えた。
俺の心配は杞憂に終わったかと少し安心する。
最後のSEニルバーナの「ALL APOLOGIES」が終わり、長く短いライブが始まった。
一曲目は「孤独なダンサー」、智広が経験は少ないながらも懸命にコーラスをとる。
楽器を弾きながら歌うのはかなり慣れが必要なのだが特に問題ない、一人でかなり練習したはず。
俺も今回はモニターに問題はなく、ドラムも目立ったリズムのズレはなく伸びやかに歌える。
俺の歌声を聴いて何かを感じてくれ。
二曲目「星屑の燃える音」が終わった時点で吉村が立ち上がりそばに来る、彼のモニターだけは前回同様不調らしい。
ライブの流れを切りかねない危険な行為だが、前回と同じ過ちは冒さないという彼の成長が伺えたので、すぐさまサウンドエンジニアに修正を求める。
一旦切れかけた流れを呼び戻すべくMC。
今回は智広が呼んだお客さんが多く、こちらの呼びかけにも好意的な雰囲気だった。
次の「青い太陽」では曲のイントロだけでなく最後まで手拍子してくれていたお客さんも多く、勇気づけられた。
そのままバンドは勢いに乗り、ラストの「夜光虫」までほぼ実力を出し切り黄昏少年のライブの中でもかなり質の高いライブとなった。
ライブ終了後もたくさんの評価の声をもらい、今回のライブは成功と呼んでもいいかもしれないと感じた。
本当に未熟な俺達だから一回一回のライブで色々教えられる。
曲がいいだけではダメ、ルックスがいいだけではダメ、バンドだから力を合わせてそのメンバーが重なり、混ざり合ったオンリーワンの色を見せる。
そしてお客さんに楽しんでもらう、媚びるのではなく自分が正しいと思った方法で。

今回のライブは本当に色々教えられました、見に来てくれた皆さん感謝してます。
そして今後もっと魅力的になるであろう黄昏少年を待ってて下さい。
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