電機姉

電機姉

プレイヤー

メッセージ

子供の頃、Kくんという友人がいて、彼はいろいろとおもしろいやつだった。
学校では一言も喋らないのに、放課後はヒーローで、わけのわからない言動が目立つ男だった。
彼のエピソードといえばイタ電で、適当にかけた相手とじっくりと話し込むという、意味不明のすごいことをやっていた。老人から女子高生まで、K君の話術に引き込まれた被害者はかなり多かったと思う。まだ携帯やナンバーディスプレイなんか無かった時代である。
また、Kくんはテロリストだったので、むかつくやつはみなエアガンで狙撃していた。
エアガンもマニアックなコルトのやつとかで、懐にしのばせておいていきなり発射したりするからビビる。
Kくんはシブがき隊が好きだったり、楳図かずおのファンだったり、チャックベリーとボブ・ディランが好きだったりして、趣味はよくわからなかった。
また、彼とよくやったのは火のついた紙飛行機をマンションの屋上から飛ばすという、これまた目的のない遊びだった。
彼はいつもヒヒッと陰気に笑いながらAVを観ていた。たしか女教師モノが最高に好きとか言っていて、かなりアブナイ少年だった。
そんな彼が自閉症になったのは、高校の頃だった。いつも電話すると彼が陰欝な声で「は、、い」と出ていたのに、彼の父親が出て「息子は部屋から出てこないんです」と言うようになった。
自閉症になる直前、彼とバンドをやろうと思っていた。すでに僕はノイズで活動していたので、新しくバンド形式でやったらおもしろいんじゃないかと考えていた時だった。
「おれギターやるから、K君もなんか音出してよ」と言うと、最初は乗り気でいろいろ話し合ったりしたのを覚えている。
しかし、結局彼とはバンドはできなかったし、あれからいまだに会っていない。
彼の家に電話をかけると、最初は出ていた彼の父親も出なくなり、彼の姉の肉声が録音されたテープが流れるようになった。
「はいKです、ただいま留守にしております。。。」
冷たく機械的な声。この姉の肉声の後ろでいま、Kくんは何を考えているんだろう、と思うと
いたたまれなくなった。
そのあと、僕はKくんを讃え、バンド名を電機姉にした。
あの留守録テープの無機質な絶望を越える演奏がしたかったのだ。
そんなわけで、メンバーは変わっても、僕がやるバンドは常に電機姉という名でやっていくことにした。

スタッツ

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