図鑑の中
彼は悲しい悲しい目で
見ていた
僕等は見てみぬふりを
得意としてきた
もう歌えない
おまけに
我が子と逸れた
「あの子はどこなの?」
「海を返して、
歌を返して 」
僕はまだ
幼さくて
ただ彼の目が哀れで
ワケも解らず
図鑑の前で涙を流した
日常と引き換えに
なにもかも
犠牲にしてきた
子供部屋を
海に沈めて
「海を返して、
歌を返して、
青を返して」
いいや、
確かに聞こえた
帰りたいと言っていた
僕を
じっと見つめている
「あの子はどこなの?」
「海を返して、
歌を返して、
青を返して」