Feb25
最後のともだち
2021年2月25日 yukio
1年間だけなのである。そのともだちとクラスが一緒だったのは。二人の共通点は音楽好きと言うだけで、学校の行き帰りよく音楽の話をした。あとは何の接点もなかった。ところが、そのともだちと大人になってからも、その後何十年もずっとともだち関係が続くことになる。そうなるとは当時思ってもみなかった。

二人の音楽趣味の共通点は洋楽で、ブリティッシュロック。特にともだちはビートルズが好きというのと、極め付きはプログレが大好きだったということだ。キングクリムゾン、エマーソン・レイク・アンド・パーマ、ピンク・フロイド、イエスと言った大御所のプログレバンドはもちろん、一番の好みは”ジェネシス”、しかもピーター・ガブリエルがリーダーとして参加している初期の”ジェネシス”が最高で、フィル・コリンズがドラムを叩きながら歌う後期”ジェネシス”は邪道だと言うのだ。一般の人がこうした名前を出してもチンプンカンプンになるのだろうが、ブリティッシュロック好きであった私ですら何が違うのかよくわからないので、LPレコードを借りて聴き比べたりもしたのだが、やはり違いがよくわからない。。。ボーカルが違っているだけで、どちらも小難しい。(笑)そんな感想を話したりすると、ともだちは大笑いするのだった。

学校も違うようになって、ほとんど会うこともないのだが、なぜか電話がかかってきたり、電話したりして、音楽の話をするのである。半年か1年に1回だけ飯を食うのだが、その時もほとんど音楽の話で盛り上がるのであった。卒業して名古屋に就職して行って、もう会うこともないだろうと思っていたのだが、数年後に東京の会社に就職したいと言って名古屋から出てきた晩には、”明日の面接がんばれ!”と言って、相談にものって、励ましたのであった。その甲斐もあってか?、なかったか?、わからないが、めでたくそのともだちは希望の会社に入社できて、それ以降、結構頻繁(ひんぱん)に会うようになって行ったのだ。

私がバンドをやっていたりなんかして、ベースがいないと、そのともだちが初心者にもかかわらず、ベースを弾いてくれないかと頼み、お互い仕事を休んで大阪までライブをしに行ったこともあった。そのうち、バンド仲間というよりは、ライブによく来てくれるお客様のような色彩がだんだん濃くなって来て、定期的にやっているライブの帰りに喫茶店とかに寄っては、あいかわらず音楽の話をああでもないこうでもないとするのであった。ただ子供の頃の昔と違って、その会話には歳をとるにつれ、お互いの仕事や家族の話も音楽の話の間(あいだ)に挟まれて来るようになったのである。

ともだちには残念ながら伴侶(はんりょ)がいなかった。よくそうした相談にものったのだが、うまく見つからない。そうした点が私のライブによく来てくれた理由なのかもしれないと今は思っている。何だか私を彼女代わりにして、いろいろなところに出かけるのに私を誘って来たり、仕事の出張先のお土産を買って来てくれて、その思い出話をしてくれるのである。私としても忙しい中、いつもライブに足繁く足を運んでくれるそのともだちの誘いを断れないし、なによりも若い頃からのともだちなのである。何でも話したし、何でも相談にのった。ただ、そのともだちに家族があれば、こうした付き合いも実現しなかったように思う。

そして、そのともだちは私のつくったオリジナルCDも全部買ってくれた。”すごく面白いよ!何で周りはお前の音楽をわからないのだろう?オレは音楽をやる才能はないが、若い頃からこれだけ音楽を聞いて来てるので、聞く才能はある!お前の音楽は良いと思う。”と買ってくれた後にはこう言ってくれたこともあった。昔からの付き合いだし、それがお世辞(せじ)ではないと今でも信じているのだが、そうした自分の子供の頃からあった、ともだちへの親近感みたいなものが、ある日、突然崩れたのであった。

そのともだちから呼び出されて、”会社を辞めようと思う。気の合わない同僚が出向先から戻って来て、自分の上司になる”と言う。もうそうなってしまったら仕事なんてできないので転職すると言うのだ。私としては何て言ったらいいのか戸惑ってしまった。”今更、オレが何と言おうと、そう思うのならそれでいいんじゃないの。”と答えてしまったのだが、本音は違っていた。

”今の世の中、そんなお前の考えているほど甘くない。転職は簡単に決まるような気でいるが、たぶん上手くいかない。今の会社で我慢する方が全然条件も良いだろうし、それが見えないんだっら、それもそれで仕方がない。。。”と言うものだった。

何十年か前、そのともだちが名古屋から出て来て、その会社の面接試験の前の夜、呑み屋で、”がんばれ!”と励ましたのに、今回はそんな言葉をかけてやれなかった・・・。たぶん、自分がそのともだちより、その呑み屋で励ました後の何十年間で、世の中の嫌なことや、ここでは言えないどろどろとした人間の本質的なものをたくさん見て来たので、大人になっているのだ。自分には見えるのだが、そのともだちには見えないのだ。

案の定、ともだちはその会社を辞めて、転職先を探したが難航を極めて、とうとう放り出した。喫茶店で話したのだが、”東京じゃ、自分の希望の就職先が見つからないし、親の田舎に戻って就職しようと思う。”と言うものだった。何も言えなかった。何か言ってもウソになる。何を話してもたぶんそのともだちの心には響かないだろう。ともだちは、もうその1週間後には田舎に引っ越して行った。

その後、子供の頃のように、たまに連絡を取り合ったりしたのだが、何か私が気にさわることを言ったのだろうか?連絡もほとんどなくなった。渾身(こんしん)のオリジナルCDをつくったので買ってくれないかと、久しぶりに電話してみると、何だか態度が素っ気ない。もう、ともだちじゃないような態度だ。理由はよくわからないが、CDを買ってくれるかどうかだけが知りたかったのでストレートに訊くと、嫌だという。

”わかった。”と言って電話を切った。メールで”お元気で。”と書いて送っておいた。その後、連絡はもちろん無い。(笑)

現時点で、このともだちが最後で、私が自分で思うともだちは大人になるにしたがって誰もいなくなってしまった。寂しいけれど、これも仕方がない。自分の身から出た錆(さび)だ。もう歳だし、たぶんこのあと、ともだちなんてできるはずもないと思っていたのだが、最近はいやそんなことはない!人生前向きにがんばれば、また新しいともだちもいつか必ずできるはず!と考えられるようになって来た。後ろばかり振り向いてちゃいけない。生きてる限りは楽しいんだから!

こんな私ですが、ともだちになりませんか?

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