Oct9
孤独な時計、生き抜いた花
2008年10月09日 strange world's end
strange world's end 飯田です。

俺は今日、車で一人自分の故郷の家へ行ってきた。

そんなに遠くは無いが、高速に乗って数時間。やはり田舎という言葉に相応しい景色だ。
祖父が他界して一年以上が過ぎ、今年になって祖母が元々悪かった脚を更に悪くし、親戚の家に移ってからはこの家には誰も住んでいない。

そしていよいよ、売りに出す事になった。
とは言っても結局の処、家は潰してしまい更地になるし、殆んど幾らにもならないらしい。

俺は業者に受け渡す期限の前に、無くなる前に、無理をしてもどうしても行きたかった。
其処には幼い日の思い出があるからだ。


着くと駐車する方の門は開いており、車を停めた庭は、庭とは呼べず、草が生い茂っていた。

縁側の水道付近にサンダルが見えた。祖父のだろう。

家に入ると、雨戸は閉まっているし、電気は止まっているから暗い。明るいのは玄関と台所と二階へ行く階段位か。
とりあえず、俺は幾つかの窓を少しだけ開け、光を家に入れた。

家の中は最近祖母達が必要な荷物を持ち出した後で、かなり散らかっていた。


家の中を一通り徘徊し、もう一度二人の部屋に入った時、静寂の中にコツコツと音が聞こえた。時計だ。

此処に時計が在ったのを俺は知らなかった。気付かなかったのだろう。

壁に掛かった時計は今も現在の時間を刻んでいた。

この時計を見ながら年老いた二人が生活していたのかと思うと、寂しい気持ちになった。

そして今もそいつは誰も居ないこの家で時を刻んでいた。

暗い部屋の中で誰にも見られない時計か…。


その後、俺は本棚の高い場所に置いてあったアルバムを見つけた。きっと気付かず持ち出せなかったのだろう。

二人の旅行の写真で、北海道に行ったようだった。仲良く写っていた。俺の感情は此処で急に決壊した。


俺が最後に祖父と話したのは電話だった。その日苛立っていた俺はその電話の内容から強い言葉を彼に掛けてしまった。

病気で先が長くないとは思っていたが、もう一度逢えるつもりでいた。

敬老の日には帰って謝ろうと思っていた。

が、結局謝れなかった。それを今でも悔やんでいる。


少し落ち着き、俺はそれを祖母に持って帰る事にした。

結果、その後壁に掛かっているのを見つけた妹と従妹が写っている写真、祖父が病中の中看護婦と写っている写真を壁から引き剥がし手にした。


俺は縁側で少し寝転がった後、煙草に火を付け、暫くその庭で鳴いている虫達の声を聞いた。

ふと気が付くとその縁側の横に鉢植えが三つあった。

そのうち一つだけ、その中でもまた一本だけ生きている花があった。

大して花の種類を知らない俺には何の花だかは解らない。
サボテンの種類のようにも見えるが幹は細かった。

土がカラカラになっているように見えた俺はサンダルを履き、それは左足だけ壊れていたようで、歩き辛くしたまま庭の水道の蛇口を回した。

最初は泥水が出てきたホースから水を、何故かその辺に転がっていた胡麻擂り鉢に注ぎ、花にやった。

水を吸って嬉しそうに見えた。

その後やつを眺め、家に持って帰ろうかと思ったがそれは止めた。
きっと此処に居たいのだろうしな。


また縁側に座り、今日は晴れていて良かったと思った。

それでも俺の視界は滲んで何も見えなかった。
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