ルノワール

蜜柑はいつも部屋に

1
箱にいびつな蜜柑
「今年のは特に甘いよ」と
自身満々な割には
細く か弱い母の文字

授業中に鳴る着信音
取り上げて生徒は舌打ち
教師になり二度目の冬
私の方が怖がってる

今日も蜜柑を食べてる
今日も蜜柑を食べてる
一人に甘さが沁みる
蜜柑はいつも部屋に

2
東京で出来た恋人は
笑顔が冷たく見える
和歌山の話をしたら
行ってみたいとはにかんだ

田舎育ち ばれちゃうな
土の香りでホッとした
お洒落な家具を買っても
畳じゃなきゃ落ち着かない

今日も蜜柑を食べてる
今日も蜜柑を食べてる
東京に甘さが沁みる
蜜柑はいつも部屋に

3
黒板に公式書き
背中で寝言を数える
校庭が人工芝になり
余計都会になっちゃった

父さんの腰はよくなった？
蜜柑、こんなに食べきれないよ
それかあのね、もう一つ
この仕事、私向いてないかも

今日も蜜柑を食べてる
今日も蜜柑を食べてる
多分年越しは帰るよ
蜜柑はいつも部屋に