次郎太

　アリの中のアリ、ンマリヤ大帝は昆虫代表として地球会議に参加する為、10日ほど前から一人歩き続けていた。しかし、所詮はアリの歩みである。なんとか会議場にたどり着いたまでは良いが、そこから会議室までなかなか辿り着けないでいる。さすがの彼も疲れて来た。まったく全ては一ヶ月程前に彼に届いた一通のハガキが始まりであった。

　『地球は今深刻な問題を数多く抱えています。そこで地球に生きるあらゆる動物の皆様方から、数名の代表者を選んで未来の地球の為、今何をすべきか話し合って頂きたく思います。ご迷惑な話でしょうが、このハガキが届いた方は必ず参加いただきます様お願い申し上げます。かしこ。

　　　　　　　　　　　　　　　地球会議委員会代表　なかむら　としお。』

　まったく迷惑な話だ。一体アリに何が出来よう、第一そんな事は人間に任せればいいのだ、あいつらが好き勝手やるからこんな事になったのだ。アリは何も悪くない。いっそ皆で力を合わせ、憎き人間を滅ぼそうではないか。大帝はこの怒りを会議でぶつけてやるのだと、意気込んでやってきた。さあ会議室が見えて来た、大帝は込み上げてくる興奮を抑えられなかった。

　会議が始まった。しかしそこにはアリの中のアリ、ンマリヤ大帝の姿は無かった。彼は欠席扱いとなった。後になって哺乳類代表のラクダのルナア伯爵の証言によれば、爬虫類代表のトカゲの友蔵が会議の始まる前、一匹のアリを食べていたそうである。