次郎太

わたしの近所に不味くて有名な中華料理店がある、その店先にある日こんな張り紙がされてあった。

『お知らせ。』
このたび都合により、店を閉めさせて頂く事となりました。長い間皆様に御愛顧いただき、本当に有り難うございました。
思い起こせば25年、様々な事があったものです。しかし、妻と二人で守り抜いて来たこの店も、大手FC店の乱立。近年の野菜の高騰。日中関係の悪化に伴う中華への無関心。反抗的なアルバイト。抜け落ちる頭髪。妻の嫉妬と裏切り、には持ち堪えきれず、このような終幕となります。今思えば、この25年間私を支えて来たもの、それはかわいい孫の「おじいちゃんのナポリタンおいしいね、また食べたいなあ。」という一言であります。これがあったから、なにがあっても今まで続けて来れたのです。妻の愛ではありません。そんなものは一切無かった。毎日繰り返される、暴言の数々、時には手を挙げられる事もありました。とてもここに書けるものではありません。奴は酒乱です。くる日もくる日も、酒酒酒。うんざりだ。しかしもういいのです。終わった事です。これからは、盆栽狩りでもしながら、静かに隠れて暮らしていくつもりです。さようなら。

　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　　店主。